ゆうやけノート
告白
「18番、岡本紗弥佳ー」
「はぁい」
わたしは大きく深呼吸して教卓に向かう。
夏休み明けに行った実力テストが返ってきたのだ。
(先生、その答案よかったらいらない?)
と心の中でつぶやき、ため息を吐く。
自信など微塵もない答案用紙なんて、見たくもないのだ。
「岡本、平均まで惜しかったな。はい」
メガネをかけなおしながら、松田先生がわたしにテストを返す。
松田先生は30代で、野球部の顧問をやっている。
正直わたしはあまり、この先生が好きではない。
まぁ、理由はいろいろあるんだけど・・・。
騒がしい教室の隅を、テスト用紙の右上に書いてある
「49」をガン見しながら歩く。
(もう、ほんとあたしって馬鹿だなー・・・)
おぼつかない足取りで自分の席へ到達。
椅子にどかっと深く背もたれして、またテストを見ながらため息をつく。
でも今度のため息は、馬鹿なわたしへの苛立ちのため息・・・ではない。
それはチャイムが鳴り終わったあとにくるであろう、あのうっとおしい声に対するため息だった。
キーンコーンカーンコーン・・・
あ、くるかな。
「じゃあ、号令は省きます。
しっかり間違えたところの復習をしておくように!」
そう言って松田先生は教室を出て行った。
もともとうるさかった教室に、さらに騒がしさが増した。
・・・来たし・・・。
「さ~やかっ! 聞いてー、あたし今回数学の点数
すごく良かったんだけど!!!96点だよ、96!!」
「まじでー!?優香すごっ」
わたしの目の前で話し続けるのは、永井優香。
可愛らしい顔立ちで、スポーツ万能、頭脳は天才級。
この子は本当にみんなから好かれっぱなしだろうなぁと思っていた。
だって、非の打ちどころがないのだから。
・・・でも、正直わたしは永井優香にかなりうんざりしている。
口を開けばすぐに自慢。人の話をろくに聞かず、自分語りばっかり。
少ーし避ける姿勢をとってトイレに行ったら、
廊下で振り向くと真後ろに笑顔で居るもんだからびっくりした。
かなりのKYじゃん、こいつ。
なんて思いつつも、チキンなわたしはそんなこと言えるはずもなく、
ただ愛想笑いと「へぇー、すごいじゃん」を繰り返すだけだった。