ラーラ
ラーラ
私の名前はラーラ、茶色の柴犬の女の子で年齢は内緒です。名前の由来は、御主人が若い頃見て感激した外国映画の”ドクトルジバゴ”に出ていたステキな女性の名前だそうです。これから私の愛した心やさしい人たちの思い出を心を込めてお話しします。
今でも、わかりませんが、ご主人の庭先で情けを込めたように鳴く姿を見てかわいそうに思い、幼かった私はその日のうちに引き取られることになりました。そしてそれはそれは大切に育てていただきました。
私の御主人は真面目で心優しくて、体格はどちらかと言うと小柄ですが世間では腕のいい家具職人で通っていました。奥さまは私が引き取られる数年前に亡くなり、唯一の娘さんは若くして結婚され大都会で暮らしているとの事ですが、このところ連絡は有りませんでした。
御主人の家は、大きな町から、だいぶ離れた所に有り、まわりは道を挟んだ真向かいの家との二軒だけでした。
真向かいの家には私の大好きな姉妹がいます。中学生の朗らかな悦子さん、そして小学生に入り立ての可愛い妹さんです。悦子さんのお父さんは私の御主人よりも十歳程若くて、大きな町の会社に勤めていて、奥さんはとてもていねいな言葉遣いの奥ゆかしい人でした。
御主人の一日は朝6時頃に起き、忙しくない限り朝9時から夕方5時頃まで家具作りに勤しみ、そして休みの日には私を連れて近くの川へ釣りに行き、月に2、3回は真向かいの家を訪れ、悦子さんのお父さんと酒を酌み交わすのを楽しみに生活していました。
私はいつも私専用の柔らかいクッションのある椅子の上に座り、御主人の仕事を眺めながら、真向かいの家の姉妹が学校から帰るのを、耳を澄まし、今か今かと待っている日々を送っていました。
二人は学校から帰り、用事をすませると我家に私を呼びに来ます。私はいつもの様に御主人の「行っておいで」の言葉におくられて遊びに行きます。いつもは家の近くに有る、寒くなると葉っぱがすべて無くなる大きな木の下で遊び、休みの日は時々近くの川で魚釣りをしたり、たまには自転車で少し遠くの公園のある丘に行ったり、毎日が楽しくて、とても幸せでした。