ラーラ
 悦子さんは高校を卒業すると都会の大学に入り、月に一度程しか帰らなくなりました。裕次郎さんは誰よりも悦子さんの帰りを待ちわびていましたが、帰宅したのは分かっているのに、決して自分からは会いに行かず、悦子さんが訪れるのを自分の部屋で今か今かと待っているのです。そして悦子さんが「裕次郎さん」と訪れると、何事も無かったような振りをして「お帰り」と照れくさそうに言いました。悦子さんから大学生活や都会の事など色々な話をいつまでもいつまでも聞いていました。

 裕次郎さんも専門学校を卒業したので、御主人に「一緒に働きたい」と言うと、「何年かは、よそで働くのも人生経験に必要だよ」と言われたので、少しずつ貯めていたお金で車の免許を取り、小さな中古車を買い、大きな町で家具作りの仕事に就くことにしました。早く一人前に成り、おじいちゃんに楽を差せて上げたいと思い、一生懸命頑張りました。

 誰が見ても綺麗になった悦子さんは、大学生活を終えると夢を求めて大都会へ出て行きました。そして故郷へ帰って来るのも年に一度か二度ほどになってしまいました。
 
 それでも裕次郎さんは短い再会を待ちわびていましたが私は二人はとうとう別々の道を歩いていくのかと想うと悲しくなりました。

 裕次郎さんは悦子さんへの寂しい思いを断ち切るように家具作りに励みました。親しい友達も出来、そして私も何度かお見かけしましたがとてもステキな女性の友達も出来ました。
 
休みの日は皆に誘われて大きな町や都会へ食事に映画やドライブに行きましたが、帰ってきた時の裕次郎さんは私から見ても心底から楽しんでいるようには感じませんでした。

 家具作りをしている時は雑念を振り払うかのように働いていましたが、それでも夜に成ると今は遠い大都会に夢を求めて行った悦子さんを切なく想い、眠れない日もたくさん有りました。
 
 或る日の月のきれいな夜の事です。私がいつものように裕次郎さんに寄り添って休んでいる時でした。大きなため息とともに私の耳に何か冷たいものを感じたので、さり気無く見上げると、あの優しい瞳から涙を流している時も有りました。
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