ラーラ
 裕次郎さんも少し余裕が出来たので、新しく赤い小さな車を買い、二人してよく映画やドライブに行きました。

 もちろん何処へ行くにも私は一緒で、後ろの席は私の独り占めです。天気のいい日には窓から顔を出し、流れゆく景色の中で顔一杯にさわやかな風を受けるのが大好きでした。

 今でも二人の事ですぐに思い浮かべるのは、海辺にある遊園地で裕次郎さんと悦子さんが一緒にメリーゴーランドに乗った時の事です。

 夕陽に染まった悦子さんの長い髪が潮風になびいている時の横顔を見る裕次郎さんの、こぼれるほどの幸せな笑顔を今でもまるで絵画でも見ているように思い出されます。

 いよいよ結婚する事になりましたので先ず二人して御主人のお墓に参り、”添い遂げる”事を誓いました。
 
 裕次郎さんの親友数人と悦子さんの身内を合わせて15人程の小さな結婚式を今は亡き御主人の家で行いました。全員で泣き、笑いながら、無事に終えました。

 悦子さんも家具作りを手伝い幸せな日々が過ぎて行きました。可愛いい花柄の付いたエプロン姿で食事を作る悦子さんの初々しくて綺麗な事といったらとても輝いていました。
 
結婚して1年目の春の事です。悦子さんは新しい命が出来た事を裕次郎さんに告げました。裕次郎さんも口には出さなかったけれど心から待ち望んでいたのでしょう。「悦子さん有り難う」と、言うと二人は恥じらうように見つめ合うと優しく手をつなぎ喜びを分かち合いました。

 早速、二人は生まれてくる子供の名前を女の子だったら男の子だったらと考えていました。

 裕次郎さんがいい機会だから「子供が生まれる前に一週間ほど新婚旅行をかねて旅行をしよう」と言うと、悦子さんはとても喜んでうなずきました。二人は毎日、旅先の予定を考えながら、それは楽しい夢心地の時を過ごしました。私も、しかたないけど今度だけは留守番です。

 そして、家の前の大きな木の葉っぱが少し黄色くなりかける頃、悦子さんの家族の愛に見送られ、さわやかな朝のひざしの中を幸せ一杯に二人は旅立ちました。
 
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