学園バンビ
……可愛い、と思う。
「……ありがとう」
そしてへらり、と笑う顔。
表情の崩れたこの顔が俺は見たかったんだ。
きっと蒼乃の家じゃ、誕生日とか祝ってもらえなかったんだろうな。
自分の誕生日を忘れるのはよほど忙しい人か、ずっと祝ってもらえなかった人か。
たぶんどっちかだと思うから。
お兄さんが亡くなってから、蒼乃の誕生日もなくなってたんだ。
いっぱい、今までの分もいっぱいおめでとうを言ってあげたい。
「蒼乃、おめでとう」
「ん、ありがとう」
「ほんとーっに、おめでとう」
「あ、ありがとう」
「おめでとう!」
「そんなに言わなくても伝わってるよ」
ちょっと困ったように笑う蒼乃。
本当に伝わってる?
「今まで蒼乃の誕生日を祝ってないぶん、今日はいっぱいおめでとうを言います!」
するときょとん、とする蒼乃。
もちろん隣に座っている梅やラビ先輩も不思議そうな顔をした。
蒼乃、きっと蒼乃は“今まで出会ってなかったから祝えないのは当然だ”って思ってるでしょう?
俺はね、そうは思わないよ。
「生まれてきてくれて、ありがとう! おめでとう」
生まれて月日を刻んだ、この誕生日があったからこそ、俺たちは出会えたんだ。
だからこれまでの誕生日はすごく意味があるんだ。
君が生まれて、俺と出会えた、その瞬間だってその日があったからこそなんだから。
だから、ありがとう、おめでとう。
君と出会えてよかったって心から思うから、だから、今日はいっぱいおめでとうを言わせてよ。