学園バンビ
「オルゴールっすか?」
「そ、オルゴール」
綺麗な音色を流し続けるその箱を蒼乃はじっと見つめたまま。
梅の時のように感想を言うのでもなく、お礼を言うのでもなく、その箱を見つめたまま。
どうしたのか、と思い声をかけようとしたが、その前に蒼乃がゆっくりと顔をあげラビ先輩をみた。
「雪ちゃん、この音」
「お、やっぱり気づいた?」
「兄さんがよくピアノで引いてた曲だ」
慈しむようなその声色に、俺は納得する。
このオルゴールの曲は蒼乃にとってお兄さんとの思い出で、大切なものなんだと。
オルゴールの淵を優しく撫でて、懐かしむように愛しむように。
「オルゴールって自分で作れるらしくってさ。店に行ったら曲選べますよ、って言われて。入れられる曲の中にこれが入ってたからいいかなって」
「うん、ありがとう。……大事にする」
「ああ」
木箱の蓋を閉じながら優しく笑う蒼乃。
ああ、こんな表情が見られたなら本当に誕生日会を開いてよかったって思う。
たとえ自分が与えたものじゃなくても、蒼乃が喜んでくれればそれでいい。
それがいいんだ。
「ほら、お前の番だろ」
「え、あ、はい」
思いを馳せていると、突然現実に戻される。
俺は手にしていたプレゼントを無意識にぎゅっと握り締める。
ああ、やばい。
いきなり緊張してきた。
喜んでくれるかな、とか笑ってくれるかな、とか。
たくさんの思いがグルグルと回って、ちょっと背中に汗が流れたけど、俺は小さく深呼吸して口を開く。