学園バンビ
それなのに彼女は嫌な顔一つせず、俺をこうして部屋に入れてくれる。
ますます自分のした事の重大さに気付き、泣きたくなってくる。
だが、彼女はやっぱり優しかった。
「いいよ、気にしてないし。貴方が言ったことは事実だから」
苦笑いで言われたその言葉に咄嗟に声がでる。
「違う!! あ……、違う、よ」
違うんだ、マーメイド。
君は何にも悪くない。
梅から聞いた事を省略しながら言うと、彼女は怒ろうと顔を引きつらせるどころか、柔らかく優しい笑みを見せた。
「……ありがとう」
「え、なんで?」
「わざわざそんな事を気にしてくれて」
その言葉で悟る。
彼女の置かれた状況の事を。
高校に入ってすぐ水泳部の部員がやめて、マーメイド一人が残った事を聞いた。
でも、事情も知らなかったし、彼女がクラスで浮いている事も知らなかった。
それから元水泳部の人と仲良くなり、マーメイドの話を聞き、勘違いをし……。
俺みたいな人間にきっとたくさん嫌な事を言われたんだ。
一人寂しく部活している彼女や、クラスの中で浮いている彼女に誰も声なんてかけなかったんだ。
本当はこんなに小さくて弱い、ただの女の子なのに。