欲張りなすき・・・
「ここのお寺、入ってもいい?」雄哉が愛莉に聞いた。

「長谷寺、初めて入るわ」

池の周りには季節を知らせる花が咲き、観光客が思い思い写真を写していた。石段をあがっていくと、途中たくさんの小さなお地蔵さんがあった。愛莉には不思議な光景だった。

「ちょっと待っていてくれる?」

そういうと雄哉はその奥に入ってお参りをした。

「ごめん。行こうか。」

「うん。」

階段を上りきると、大きなお堂が見えてきた。

「綺麗だよ。見に行こうよ。」

「うん。」

愛莉は雄哉と一緒にそのお堂に入った。2人は観音像の前に行き、お賽銭を入れて手を合わせる。

「本当に綺麗。」愛莉がそうつぶやいた。

外に出ると、雄哉は奥の建物を指差して
「あそこね。一周まわすと経を読んだのと同じご利益がある物があるんだ。ちょっとやってみる?」

「うん」

「あれれ?出来ないって書いてある。なんだよ~ちくしょう。」

愛莉は子供のように残念がる雄哉が面白かった。

展望台で飲み物を飲みながら、雄哉が
「ここさあ、よく家族で来るんだよ。うちでは鎌倉って言うとここのことなんだ。」

「そうなんだ。」

「あそこのお地蔵さんの中に・・・俺の妹か弟がいるんだ。正確に言うと、いたんだ。もうお炊き上げされてお地蔵さんはないけどね。」

「えっ?」

「あそこは、生まれなかった子供達を供養しているんだよ。」

「そう。」

「ごめん。変な話ししちゃったね。」

「いいよ。気にしないで。」


2人はしばらく、ただ黙って海を見つめていた。


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