フラミンゴの壁
第14章
もうひとりの有望な俺が書いた手紙にはこう書いてあった。
「あんまりアテネを泣かせないでくれ。 こっちの世界では、アテネはおるの婚約者なんだよ。おるもほんとうはアテネと一緒に世界を救ってやりたい。だけどそんな力まではおるには備わっていないんだ。おるくんの背負っている虚こそ、おるらの背中合わせ運命の始まり。おるにはとても抱えきれるものじゃなかった。でもおるくんは虚のなかからきっかけを見つけた。おるはおるくんをもうひとりの自分として羨望する。」

俺は最後まで手紙を読み通し、顔をあげ、女を見つめた。

美しい女だった。

目の前にいる女が別の世界では俺の婚約者だなんて、俺はこれまでこんな美しい女と付き合うこともなければ、友達にもいない。

「あんたがアテネかい?」

俺は女を舐め回すように見ながら聞いた。

「この手紙でアテネと俺の関係はわかった。俺のチカラもまんざらではないこともわかった。でもどうだい、この俺ともうひとりの俺は女のあんたからみて違うものかい?」

アテネが言った。

「顔も体型も同じよ、げどねやはり仕草やことばの使い方、そして正義のこころはタロチャンとは似てないわ。」

窓の外からクスクスと笑い声が聞こえた。
俺はすぐにダナエとヘルメスだと察して、枕元の目覚まし時計をアテネの顔面に向かって思いっきり投げつけた。

「パンっ」と固物の重量のある音が聞こえた。

反射的に蹲ったアテネの前にヘルメスが立っていた。
俺は言ってやった。

「これがお前たちが探していたきっかけっていう原理さ。」

ダナエが俺の影のなかから立ち上がるように現れる。

「ほんとうにやりたい放題ね。ヘルメスがでなけれはねぇさんが怪我したじゃない。」

ダナエの兄弟だろうとはアテネの顔をみたときから感付いていた。

「でもお前たちはこうやってアテネを守った。それを発動させたのは、この俺だ。もしお前たちのどちらかがアテネに同じように目覚まし時計でも包丁でもアイロンをなげてもアテネは怪我をおっただろう。この意味がわかるかい?それは俺がアテネを庇うことをしないからだ。それではきっかけとは呼ばないんだろ。きっかけとはこんなことの局部的で極位的なところにあるものなのさ。」
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