フラミンゴの壁
第3章
運命や宿命以外にも、因果や縁という自分の知らないところで自分が支配されている。
俺にはそんな直感がある。
そう思うと結果がありその間の工程はどうあろうとその結果しかあらわれるものではないと思う。
俺は軽く息を吸い込んだ。
少し肺にたまった空気をイメージして今日もこのぐらいの息で生きたいものだと思った。

俺は、吊り革に手を掛け、SF小説を読んでいる。
その日は変な日で会社へ出勤途中の満員電車のなかに、いかにも神経質で自意識の異常な高められかたをした男がいた。

男は同業者らしく、血液型でいうならば、性格の細かいA型の男。
鋭く切れ長の顔つきに眼鏡を掛け、若いながらも薄くなった髪をことあるごとにかきあげては整髪をしていた。

「そんなに触れば髪も傷んで抜けるよ。」

男があまりにも神経質に髪を触る。
それからバッグのなかのハンカチで手を拭う。
俺はその一連の繰り返しに集中力を欠いて、文庫本越しに男をみていた。

偶然にも同じ駅で男も降りた。

俺は電車から降りるときに自然なかたちで自分のカバンを男の太ももに当てて、別れのあいさつをした。

仕事が終わり終電も近い時間。
また同じ駅で朝の神経質な男を階段で見つけた。
男は接待で酒を飲んだのか、階段に座り込んでいた。

俺がそれに気付き男の横を通り過ぎるとき、男は眼鏡をはずし階段のうえに置いていた。
男はうなだれて顔を伏せて動かない。

俺は男の眼鏡を左足で踏んだ。
俺はそのまま気付かぬふりをして改札口を抜けていった。

「不思議な偶然もあるんだなこんな日は何かいいことが起こるんだけどな。」

俺は一日が仕事で過ぎたことを悔やんだ。
もしかしたら一攫千金を狙える日だったのかもしれない。

運の巡りとはそういうものであると俺は自分に自信ありげに言い聞かせた。
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