狐と兎
「どうしよう、あたし変な事しちゃったら……」
「だから粗相のないように、って言っているじゃないか」


怯えるキルシュにハルトは自ら傍に歩み寄れば、

包帯の巻かれている右手でそっと頭を撫でました。

キルシュがハルトの顔を見上げると、ハルトの穏やかな表情に心を落ち着かせます。


「大丈夫。ジジ様はお茶を目の前でこぼされたくらいじゃ怒らないよ」
「ハルト……」
「……多分」


最後の一言がなければ、キルシュを落ち着かせるには充分過ぎる位の言葉でした。

しかし最後の一言の所為でキルシュは余計に、ドキドキせざるを得なくなりました。


「ハルト君。君はキルシュを怯えさせてどうするつもりなんだい」


呆れながらにも冷静にオルヒデはハルトにツッコミを入れました。

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