狐と兎
キルシュは自分が幻を見ているような気分に襲われました。

ハルトは確かに自分の腕の中でいなくなりました。だから此処にいる訳がないのです。


「あたしってば、幻も見てしまう位に引きずっているんだね……」
「幻じゃないよ」


ハルトはキルシュの前にしゃがみこみ、彼女の手を握りました。

その彼の手には包帯は巻かれていなく、文様もない綺麗な手でした。

手から伝わる体温は暖かく、キルシュはひどく衝撃を受けました。


「ば、化けて出た……!」


キルシュはその場から逃げようとしました。

するとハルトは不思議そうな顔をしてキルシュに顔を近づけ、言いました。
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