手鞠唄~神は欠伸と共に世界を眺める~
宵の口
かごめ かごめ
籠の中の とりは
いついつ 出やる
夜明けの 晩に
鶴と亀が 滑った
後ろの正面 だぁれ
空には欠けた月が、空の中央に煌々とあった。
満月でもないのに月ばかり明るく、星はなりを潜めている。
昼の賑わいとはうって変わり、不気味な静寂が夜を染めていた。
すれ違う人も時間が時間だけに少なくて、それがまたなんとも卑屈な気分をもたらす。
こんな時間までの残業続きに、溜まりに溜まったフラストレーションが足音にさえ反映してるようで忌々しい。
それに加えて、この湿度だ。
やたらとべたつくような空気だと、紗智は鬱陶しげにストレートの髪を掻き上げて空を睨んだ。
相も変わらず、月はそこにあり嘲笑う口のように見えて舌打ちしたい気分になる。
今日こそは定時とはいかないまでも早めに帰って、溜まりに溜まった家事をしようと思っていたのに、とんだご破算があったものだ。
苛立たしげにアスファルトを蹴るように歩く。
幸いまだ終電までには時間がある。
が、それも2、3本の余裕というくらいか。
その事実がまた、彼女を憂鬱にした。
「まったく…」
口からは毒しか出ない現状も、なんというかだ。
そういえば…と、ふと思い出した。
ストレス発散のお守りと、職場の後輩が買って来てくれた物があったのを思い出す。
バッグのポケットに入れたままだったような。
歩きながら探れば、指先に硬く冷たいものが触れる。
引き出せばそれは、淡い朱色のシンプルなパワーストーンだった。
紙袋に入れていたはずだが、歩いているうちに出てしまったのか。
何はともあれ、手にとって月に翳す。