手鞠唄~神は欠伸と共に世界を眺める~
辺りへ目をやれば、ほんの4、5メートル先に転がっていた。
親指の先程のサイズの石。
市販の石で、ただパワーストーンと名を冠したの綺麗なだけの石。
半貴石でもなければ、ましてや貴石でもない。
効能やまじないは半信半疑で、気休めと思っている。

それが、どうして。

目が離せない。

ただ、月の光を浴びて煌めいているそれだけなのに。
手を伸ばすことどころか、身動ぐ事さえ出来ない。
紗智は魅入られたまま、息を忘れるほどだった。
月の光があたかも石にだけ注いでいるような感覚に、瞬きさえ惜しくなる。
不意に、風が頬を凪いだ。
冷たい、冬のような風。
意識が現実に引き戻される、ほんの一瞬。

『…ー?』

「…え?」

声がした気がして、紗智は振り返った。

それが、紗智がこの世で見た最期の光景となった。
どさ…っ
糸の切れた人形のように、崩れ落ちる。


遺されたのは、力を無くした彼女の躯。
それと、色を無くした、透明な石だけだった。
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