恋するレンズのむこう
昨日、久しぶりに梓の病室へお見舞いに行った。
『兄貴、体調はどう?』
そう言って病室に足を踏み入れると俺の目の前に梓に抱きしめられている女がいた。
その女が有香だってすぐに分かった。
有香は俺の初恋の相手だから―・・・
俺が有香の存在を知ったのは、実は中学の頃。
駅のホームで高校の受験会場へ向かう電車を待つ。
緊張と不安が入り混じった気持ちでかじかんだ指先に自分の息を吹きかけた。
暗記とか確認しとこ。
そう思って鞄から参考書を出したとき。
鞄の中から参考書と一緒にシャーペンが落ちてきてそのままホームを転がっていった。
そのシャーペンを拾う、白い手が視界に見える。