恋するレンズのむこう
「これ、落ちましたよ」


そう言って微笑みながら俺にシャーペンを渡してきたのが、中野有香。


俺はその笑顔を見たとたん、胸が締め付けられるような痛みが走った。


俺は、有香に一目で惚れたんだ。


電車に入ってからもすぐ近くにいる有香の存在が気になって仕方なかった。


名前とかは分からないけど、きている制服は俺の中学にも近い中学校の制服だった。


たぶん、彼女も今日受験なのだろう。


俺は、不安でいっぱいだったのに。


彼女はどこにも“不安”なんて言葉がないかのように。


やるべきことはやったのだから、と潔い姿勢で真直ぐ車窓の外の移り変わる景色を眺めていた。


そのしっかりとした横顔から俺は目が離せなかった。



自然と、不安や緊張もなくてかじかんだ指先も次第に動きやすくなった。


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