恋するレンズのむこう
「兄貴、体調はどう?」


・・!!

ドキン、と心臓が口から飛び出るような感覚になる。


この声は・・・陸。


しばらくの間会わなかった陸の声で動揺している自分に戸惑う。


顔が自然と歪んでくる。


梓も、あたしの顔を見て少しだけ眉が上がった。


今あたしの背中に回ってるこの手に離されたくない。


このぬくもりを失いたくない、と思う。


なのに・・


それなのに・・・


どこかで「陸に見られたくない」と思っている自分がいたんだ。


「今日、りんご買ってきたんだけど・・・」


あたしの存在に気づいてないように話して来る彼の声が止まった。


背中に視線を感じる。
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