恋するレンズのむこう
ゆっくり去っていくその背中が見えなくなるまでずっと見ていた。


立ち尽くしたまま。


その背中が見えなくなると、やっと言われたことの実感がしたのか涙が出てきた。


気がついてみたら、あたしの手足は小刻みに震えていた。


怖かった。


陸の困った綺麗な顔も、冷たく突き放すような声も。


陸のはずなのに陸じゃない気がした。


力が抜けて、その場にしゃがみこんだら涙がますます溢れ出た。


『陸・・・』


最後まで陸の名前を呼ぶことしかできなかった自分がとてもつもなく嫌だった。


さっきまで感じることができた陸のぬくもりは今はあたしの手からは消えている。


消えてしまったそのぬくもりが恋しくて。


『陸・・・陸ぅ~!』


小さく消えそうな声で呟くように呼んだ。
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