恋するレンズのむこう


ぎゅっ




気がつくとあたしの視界は真っ暗だった。


あたしの髪の毛には陸の吐息がかかる。


あたしの背中には腕が回っていて力強く抱き締められる。


『…陸』


陸があたしを抱き締めていた。


「有香…」


あたしの名前を呼ぶ陸の声は小さかった。


『陸…』


「泣けよ…」


優しく、どこか切なげに言う陸。


その優しさにあたしの目頭は熱くなる。


陸の腕は力強くて、優しくて、暖かかった。


そんな陸の胸はなんだか安心できて、あたしはその中で思い切り涙を流した。



< 99 / 196 >

この作品をシェア

pagetop