* 翼をください * ー俺様柏原の不器用Loveー
あまりの静けさに、さっき柏原が買った腕時計が時を刻む小さな音までもが、やけに部屋に響く。
トクン・・・トクン・・・
私の鼓動までもが聞こえてきそうで、何か話して誤魔化そうにも、この空気がそれを許さない。
すると・・・
「さっきの男、お前の父親か?」
ようやく口を開いた柏原から出た言葉が、私を驚かせた。
あの顔を思い出して、急に体が強張る。
何も言わないでいると、フワッとソファーが浮いて、私の目の前に向かい合わせで柏原が座った。
まっすぐな瞳を私に向けて、柏原が問いかける。
「あの男のせいなんだろ?」
返事に困っていると、真剣な眼差しで私を捉えて話を続けた。
「あの男に、何をされたんだ?何がお前を、こんなにも苦しめてる?教えろよ。」
そう言って、私の肩を強く掴んで離さない。
「いやだ、話したくない。」
今まで、誰にも話せないでいた、幼い頃の記憶。
どうしてか、柏原には一番知られたくないと思った。
話して嫌われるのが、怖いと思った。