*  翼をください   * ー俺様柏原の不器用Loveー

「お前、いびきはかくわ、寝言は言うわで、色気ゼロだったぞ。」


柏原はそう言って口角を上げ、少し目じりを下げて笑った。


心臓が、トクン・・・トクン・・・と、リズムを刻む。


何これ!?



心が暖かくなる不思議な気持ちを、必死で隠そうと、ムキになって言い返した。


「い、いびきなんて、かかないし!」


「かいてたし。それに、寝言で何回も『お父さん』って、どんだけファザコンだよ。」


「え・・・。」


「なんだよ。」


あの夢・・・。


「お父さんなんて、いないよ!」


つい声を荒げてしまって、柏原の表情が強張る。


私も、自分の声の大きさに驚いて、少し落ち着いて続けた。


「私が7歳の時に・・・

   ・・・死んだ。」


本当はどこかで生きているあの人を、死んだ事にするのは、私の中での暗黙のルール。



「そっか、わりぃ。」


さっきまでの空気がガラリと変わり、二人の間を沈黙が包んだ。

< 51 / 281 >

この作品をシェア

pagetop