春になるまで

理事長室から出ると、私たちは無言のままエレベータの前に来ていた。
はっきり言って気まずい。
階数を照らすランプを見ながら、2を照らすと静かにエレベータの扉が開いた。
成瀬が乗ると、後に続いて私もエレベータに乗った。

「教室、7階だから間違えないようにな」

「はい」

それだけ伝えると成瀬はまた黙り込んでしまった。
私は特にすることもなく、小さい声で歌を口ずさんでいた。

「……“Rain”」

「え?」

7階に着くと同時に成瀬は口を開いた。

「その曲、好きなんだ」

成瀬は照れ臭そうに頭をかきながら、微笑んで言った。
先程とのギャップに驚きつつも私は嬉しくて、

「ありがとうございます」

と満面の笑顔を成瀬に向けた。

歌で褒められたりするのは世界で一番大好きなこと。
だって……私には歌をとったら何一つ残らないから。
歌を歌うことが唯一の存在理由だと信じていた。

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