春になるまで
「……え〜と、あとは特にはないか。 今日も一日しっかりやるように。 号令」

「起立、礼」

成瀬が教室を出た瞬間、クラスの人全員が私のところに集まってきた。

「雛森さんてMomoだよね!?」

「私超ファンなの〜サインちょーだい」

「私も!! 握手して〜」

「テレビで見るより細〜い」

みんなが一斉に話すから私は何を言われているか分からなかった。

「……ねぇ」

その場に似つかわない静かな声が響いた。
はしゃいでいた女の子たちが話すのをやめた。

「雛森さんは騒がれるためにここに来たんじゃないんだよ? 少しは彼女の気持ちも考えたら?」

しーんと静まりかえった教室内にチャイムの音が鳴り響く。
みんなはそれぞれ自分の席に戻っていった。

「あの……」

「ん?」

「ありがとう……」

「有名人さんは大変だね」

遠矢はニコッと笑うと、何もなかったかのように前を向いた。

私はボーと窓から外の景色を眺めていた。
遠矢、彼の考えていることが分からない。

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