春になるまで
「何であんな嘘をついたの?」

前を歩く遠矢の背中に私は話しかけた。
すると、彼は歩を止めて静かに振り返った。

「君が辛そうな顔をしてたからね。今にも泣き出しそうなくらい。だから……助けたじゃダメかな?」

「何が目的なの? お金?」

私が放った言葉に、彼は声をだして笑い出した。

「……な、何がおかしいの? 私は真剣に話してるのよ」

「い、いや……君面白いね。純粋に君を助けたかった。ただそれだけだよ」

彼はいまだ笑い続けている。
それにつられて私も笑い出した。

「やっぱり……君は笑ってたほうがいいよ。その笑顔には癒される」

ふいに言われた言葉に頬を赤らめる。
自分にこんな一面があったことに少し驚いた。

「…っと。もうすぐ昼休みが終わるね。教室に戻ろうか?」

そう歩を進めだした彼の後ろからついていく。

遠矢茅……
彼は悪い人ではなさそうだ。
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