春になるまで
「ホテル生活にも飽きてきたでしょ? たまには普通の女の子になったら?」

芹澤さんは制服を私に持たせるとクローゼットに押し込んだ。

「早く着替えなさいよ?」

有無を言わさず、ただ私は彼女の指示に従った。
バスローブを脱いで、その服に袖を通していく。
制服なんてはじめて着るからすごく緊張した。

鏡に映る私は“Momo”。
モデル業や歌手もしている今最も売れている女性アーティスト。

私はすぐに鏡から顔を背けると、クローゼットから出て行った。
芹澤さんは私を見るなり満面の笑みを浮かべて、髪をセットしてくれた。

胸の下くらいまであるウェーブした長い髪。
それを制服に似合うようにぱっぱとまとめていく。
芹澤さんには感謝してもし尽くせない。

「学校まではタクシーで送り迎えさせるわね。仕事が入ったらすぐ出られるから心配ないわ」

よく見る革製のスクールバッグには、必要最低限のものが入れられていった。

「何かあったら電話しなさいね」

芹澤さんはそれだけ言うと私を反強制的に部屋から追い出した。

.
< 3 / 21 >

この作品をシェア

pagetop