春になるまで
「芹澤さんっていい人なのかそうじゃないのか……際どいな」

私はブツブツと呟きながらエレベータに乗り、2のボタンを押す。
シャンデリアの光に照らされながら、ゆっくりと階数がさがっていくのを数える。
2に光がさすと、ゆっくりと扉が開いていく。

「…雛森桃さまですか?」

エレベータの外には黒いスーツを着た男性が立っていた。
芹澤さんみたいな人。

「そうですけど…」

「おはようございます。 これから桃さまの送迎を担当する東條と申します」

私が肩にかけていたバッグを自然にとって、後について来るように言った。
不思議な感覚におそわれつつ、エントランスに行くと黒塗りの車が横付けされていた。

「…どうぞ」

後ろの席のドアを開けて、中に乗るように促す。
私が乗ったのを確認すると、東條は運転席に移った。

「だいたい30分くらいですので、どうぞおくつろぎください」

そう言って車は動き出した。
流れていく景色を横目に私は目を閉じた。

.
< 4 / 21 >

この作品をシェア

pagetop