春になるまで
「雛森桃さんでしょうか?」

「はい……そうですけど」

私が目当ての人物だとわかると、その人は理事長室までご案内しますと言って、玄関のドアを開けた。
来客用のスリッパにはきかえて男の後ろについていく。
内装も外観に見合っていてすごく綺麗だった。
私の予想におおきく反していてただただボーと眺めていた。

そして。
ある部屋の前に着くと、男はドアをノックし、私をその部屋の中へ入れた。

「理事長、雛森桃さんをお連れいたしました」

外を眺めていた女性に、男は話しかけた。
日の光が眩しくて、顔がはっきりと見えないが……理事長にしては若めに見えた。

「ありがとうございます。 あなたはもう下がりなさい」

優しく澄んだ声。
聞いているだけで心が落ち着くようで、私はその声に聞き惚れていた。

「……雛森桃さん?」

「は、はい!!」

「ようこそ。 桜海学院高等学校へ。 私は理事長の長門美羽(ナガトミワ)と申します。 あなたの事務所の社長さんから事情は伺いましたわ」

私をソファに座らせると、理事長は珈琲をいれて、私の向かいに座った。

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