春になるまで
コンコンッ

「あら、来たみたいね。 雛森さん、あなたの担任をする人よ。 どうぞ」

私は出されていた珈琲を一口飲むと、ガチャリと開かれたドアに目を向けた。
スラッと伸びた長身に、肩に付くぐらいのワックスで固めた髪。
一目見て分かった。
この人には隠し事がなにもできないと。

「こちらは、2-Aの担任の成瀬嵐(ラン)。 数学の担当よ。 何かあったら私か彼に相談なさい」

理事長は笑顔で成瀬の肩を叩いた。
一方成瀬は目の前の事実を把握しきれてないのか、目をパチクリさせている。

「成瀬、自己紹介なさい」

「あのMomoなのか……?」

「……え?」

「あ、いや……雛森の担任の成瀬だ。 担当は数学」

「私……高校ってはじめてなんで色々とよろしくお願いします」

私は急いで立ち上がると、ペコリと頭を下げた。

「成瀬、この子色々と知らないことも多いから、よろしく頼みますわ」

「はい、理事長がそうおっしゃるなら」

成瀬は理事長に一礼すると、ドアに向かって歩き出した。

「雛森、行くぞ」

「は、はい」

私はバッグを掴むと、肩にかけて成瀬に続いた。

「理事長、ありがとうございます」

そっと微笑んでドアを閉めた。

.
< 9 / 21 >

この作品をシェア

pagetop