Anniversary
 何を言われたのかが、まず、わからなくて……「え?」と言ったまま私は、ボーッと先輩のその整ったカオを見つめてしまった。

 まじまじとした私の視線を受けて、先輩は少し照れたようにカオをしかめてみせる。

 ――うわビックリ、照れてる先輩なんて初めて見たかも……!!

「桃花は、何だかんだとヒトのこと『先輩』呼ぶクセが抜けへんなぁ……」

「先輩だって……関東にきてもう何年にもなるのに、全然関西弁が抜けないじゃん」

「オレのは生まれつきや! クセごときと一緒にせんで欲しいわ。――って、だから、どうでもいいんやってオレのことは!」

「…………?」

 なんだか、可愛いくらいにその言葉が“照れ隠し”に思えてきたし……つまり先輩が何を言いたいのかが、全然、見えない。

「だから桃花…」と、脱力したように呟くと先輩は、そこで私の頭の上にポンッと軽く手を載せた。

「今日でもう中学は卒業したやろ? いい加減、『みっきー先輩』はやめて、名前で呼んでくれん?」

「………『三樹本(みきもと)先輩』?」

「イヤ、そんなんでなくて……だからオレには『慎之介(しんのすけ)』という名前が、あるんやけど……?」

「それは知ってるけど……じゃあ先輩は、苗字じゃない名前で呼ばれたいの?」

「うん…まあ、平たく言えば……そういうこと」

「んーっと…じゃあ、『慎之介先輩』……?」

「だから桃花……なんでオマエは『先輩』から離れられんねん……」

「だって…『先輩』は『先輩』だもん?」

「…………」
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