Anniversary
 そこで、はーッと深くタメ息を吐くや否や黙りこくってしまった先輩は。


「―――…ンっとに、“オコチャマ”やなー桃花は」


 シミジミとそれを言うと、ハッ…とした息と共に苦笑いを浮かべた。

 そのまま私の頭に載せていた手で、くしゃくしゃっと、髪をかきまぜるようにして撫でてくれる。

「オマエがオトナになるまでには、まだまだ時間がかかりそうや」

「なッ…なによソレーッ……!?」

 その聞き捨てならないセリフで即座に目を剥いた私だったが、「当然やろ?」と、アッサリ軽く往(い)なしてくれちゃう、満面笑顔の『慎之介先輩』。

「だから、当分オレは『みっきー先輩』でガマンしとくわ」

 笑いながら、先輩は言う。


「桃花が、オレのこと当たり前のように『慎之介』って呼べるようになったら……その時、晴れてオレが桃花を“オトナにしてやる”からなー?」


「………は?」


 それを聞くや否や反射的に“ナニそれ?”とカオに書いてしまった私を見て吹き出しながら。

「今オレが言うたことのイミがわからんうちは、まだまだオコチャマ、ってコトやな」

 噛み殺し切れないニヤニヤ笑いを浮かべて、それを言う先輩。

「―――ムっカつくーッ……!!」

 思わずムクれた私は、投げ付けるように告げていた。

「絶対すぐにオトナになってやるんだから! 見てなさいよ! 先輩なんて、ビックリさせてやるんだからーッッ!」

「おう、首を長ーくして待っとるでー?」

 なーんていう余裕シャクシャクなその態度が、なんかとてつもなく腹立たしい。

「待たせないもん! 首長くしてるヒマなんて無いからねッ!」

「そりゃ嬉しいわ。楽しみにしとるなー?」

 そこで先輩が、ふいに私の肩を抱き寄せる。


「…したら“約束”。――今日、桃花がひとつオトナになったシルシ、もう一度もらっとくわ」


 ゆっくりと目を閉じた私の唇に……そして、先輩の優しい唇(キス)が、降りてきた―――。
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