Anniversary




「ねー先輩、まだ怒ってる……?」

「…………」

「だから、ホントにゴメンナサイってばー……!」

「…………」
 先輩の背中に向かって何度そんなセリフを繰り返してみても……相変わらず先輩は何も言わず、黙々と自転車を漕いでいるだけ。

(そりゃあ、早とちりしてケリ入れちゃったのは、私が悪かったんだけどぉー……!!)


『――いっ…イキナリ何てことするんやーッ……!?』

 私に蹴り飛ばされた向こう脛を抱え込みつつ、痛さにカオをしかめながら身体を2つ折りにして呻く先輩に向かって。

『どーっせ私は脚が太いわよ! 悪かったわね! そんなこと、わざわざ言ってくれなくてもいいじゃないッ!!』

 脹れっツラで“いーっだ!”とやってみせる私。

 するとそこで先輩は、その姿勢のまま私を見上げ、“はあ!?”とでも言いたげな視線を向けて下さったのだ。

『桃花の「脚が太い」だなんてこと……オレそんなん、ヒトコトも言うてへんやんか!?
 ただ「スカート短い」って言っただけ……』

『同じことじゃないッ!! なんでヒトの制服姿見た第一声がソレなのよ!?』

『そんなん単に、そこまで短いスカートじゃ自転車なんて乗せられんなー…って、それ思っただけやんか』

『―――はい……?』

 その言葉にハタ…と我に返ったように硬直してみると……目の前には脚を抱え込んでいる先輩。

 その背後に在るのは……自転車?

 先輩の姿しか目に入っていなかったから、全っ然、気付いてなかったけど。

 そういえば、先輩が毎日、地元から軽く電車3駅分の距離はあるココまで自転車で通学していることは、私も知っているけれど。

(ひょっとして……?)

『自転車……乗せてくれるつもりだったの? 私のこと……』

 恐る恐る尋ねてみる私に向かい、少々ブスッとした表情になって答えてくれた、先輩。

『「入学祝いに、いいトコ連れてってやる」って……昨日、電話で言わへんかったっけ、オレ?』
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