Anniversary
 ――イヤそれはちゃんと聞いておりましたけど。

 幾ら何でも私だって、そのくらいのことは憶えてるわよ。

 でも先輩、だって私に「自転車で来い」とかそういうこと、ヒトコトも言わなかったじゃない……!

 そんなの誰も自転車で行くトコだなんて、思わないってバ……!!

 ともあれ、とりあえずソコで自分の失態にようやく気付いて青くなった私は、ただもうヒタスラ先輩に謝り倒して、『後ろ乗りたいー! 乗せて乗せてー!』とダダをこねてはネダりまくり、挙句の果てには『スカート短くても下にちゃんとスパッツ穿いてるから、少しぐらいめくれたって全然大丈夫!』とまで言って『そういうモンダイやない!』と先輩にチョップをもらったりもしつつ……、

 そんなこんなで何とかようやく、『しゃーないなー…』と、シブシブながらも先輩に頷いてもらうことが出来た。

 でも、キッチリ横座りで乗せられたけどね。

『めくれんように、ちゃんとスカート押さえとき』って。


 ―――で、今こうして先輩の漕ぐ自転車の後ろに乗せてもらっているワケなんだけど。


『ねえ、先輩。これからドコに連れてってくれるの?』

『花見』

『―――は?』


 それをヒトコト言ったっきり、私が後ろからどんなに話しかけても謝っても、ヒタスラ無言を貫いて下さっているし。

 言われた通りにちゃあんと横座りしてスカート押さえてはいるけれど……この姿勢って、全然、先輩にくっつけなくて淋しいんだよね。

 淋しいやら、先輩と話せなくて哀しいやら、蹴っ飛ばしたこと思い出して申し訳ないやらで……自分が情けなくなってタメ息を吐きつつ、身体の右側を先輩の広い背中に凭れ掛けた。

「先輩のイジワルぅ……」

 拗ねた私が、先輩に見えないことをいいことに、そう小さく呟いて唇を尖らしソッポを向いた、―――ちょうどそんな時。


「―――うっ…わあっ……!!」


 そこで視界に飛び込んできた薄ピンク色の洪水に、私は思わずそんな声を上げていた。
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