Anniversary




「でも、いいなあ先輩……桃とか桜とか、あーんな綺麗なお花で“お花見”しながら学校に行けるんだもん……」

 ウラヤマシイなあ…と、そこで私はタメ息1つ。

 先輩の自転車で自宅まで送ってきてもらってから……別れ際に、今さっきまで見てきた花が名残惜しくて、つい私はそんなことをボヤいてしまった。

「私なんて、これから毎朝、満員電車に押しつぶされる日々が待っているっていうのに……」

 一応、先輩が自転車通学してるって聞いた時から、一緒に登下校したいもん、「私も自転車で行くー!」って言ってみたりもしたんだけど。

 ――だって先輩いわく、「ヘタに電車で行くより近い」っていうことだし。「田圃(たんぼ)ばっかで車も少ないし事故る心配ナシ」とも言ってたし。

 …なら、運動音痴な上に自転車に不慣れな私でも大丈夫かな? なーんて考えてみたり。

 なのに、私の運チっぷりをよく知る先輩はじめ両親にまで、猛反対を喰らってしまったのだ。

(なんで皆して、示し合わせたように『田圃に突っ込んでいくのがオチ!』って、同じこと言うかなー……)

 それを否定できない自分が、この上なく哀しいこと限り無いんだけど……。

 そんなワケで、だから結局、電車通学せざるを得なくなってしまったのだよねー。

「私も、あんな綺麗なお花を見ながらガッコ行きたいなー……」

 欲を言うなら、“先輩と一緒に”が、付いたら尚よろしいんだけど。

「じゃあ、行ったらええやんか。花見しながら」

「はい……?」

 そんなアッサリきっぱりした返答で、思わず目を剥いて私は先輩を見上げてしまう。

 ――真っ先に私の自転車通学に反対してくれちゃった人間がナニを言うかな今サラ……!!

 でも先輩は、そんな私の様子などドコ吹く風、「桃花に早起きする気があるんならな」と、ニッコリ笑顔で続けて下さる。


「花が咲いてる間だけ……毎朝一緒に“花見”するか?」


(―――えっ……?)
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