Anniversary
「そ…それって……」

 呟くように洩らしたまま…でもそれ以上の言葉を続けられず、目を剥いたままで絶句して硬直する、そんな私に向かって。

「じゃあ、明日の朝7時半に、あの桃の木のトコで」

 降ってくる、そんな当たり前のような…それでいてどこまでも優しい、先輩の言葉。

(それって……一緒に学校行ってもいいってコト……?)

 しかも、今日みたいに、自転車の後ろに私を乗せていってくれるの……?

 そのことに気付いた途端、…まだ絶句状態だったとはいえ、私の表情がみるみるパアッと明るくなっていくのが、自分でも判った。

 そんな有頂天まっしぐらな私の額を指で軽く弾きながら……そこで釘を刺すような、先輩のオコトバ。

「ただし、明日が晴れだったら…の話やからな? ――もし雨が降ってたら、桃花は大人しく電車でガッコ行くこと!」

 雨の日の自転車(チャリ)2人乗りは危ないからな。…そう、しかつめらしいカオで尤もらしく注意なんかされちゃっても、ものっすごい勢いでテンション上がりまくり真っ最中の私にとっては、そんなことくらいじゃ治まらない。

「大丈夫ッ!! 私ってば超強力な“晴れ女”なんだからッ!! 絶対、明日は晴れるんだから!! 明日も明後日もその次も……この先ずーっといい天気だよっ!!」

 満面笑顔で断言してみせた私は、…多分、ホントに嬉しそうなカオをしてたんだと思う。

「…まるで遠足前の小学生やな」

 苦笑混じりにそう言うと先輩は、「じゃ、また明日な」と、私の頭をくしゃっと撫でつつ、そのまま勢い良く自転車を発進させてしまった。

 ――去り際に、かすめるようなキスだけを1つ、私の唇に残して。
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