Anniversary

「失礼しまーす! 《天文部》ってコチラで、す、……?」


 ドアを開くと同時に発していた言葉は……途中でノドの奥に貼り付いたまま、凍りついた。

 代わりに出てきたのは、「う…」という呻き。

 だって……ドア開けた途端に鼻を突いた刺激臭。

 紛うこと無くタバコの煙。

 しかも1本や2本って量じゃないモクモクっぷり溢れる視界の白さ。

 その煙の向こうで……机を4つ向かい合わせただけの即席雀卓を囲んでジャラジャラと麻雀に興じている、オヤジな高校生3名。

 プラス、白衣着たムサいメガネの男性1人。

(――つーか、ここホントに高校……?)

 いくら『生徒の自主性に任せた自由な校風』とやらがウリな規制のユルい高校だからって……これは行き過ぎなんじゃないだろうか……?

 反射的にミカコと2人、“回れ右”して逃げ出しかけたわよ。

 どうりで……「私も《天文部》に入部する!」って言った時、先輩が、そこで驚いたよーな困ったよーな何とも言えないビミョーな表情を浮かべたワケが、ようやくこれで理解できたわ……。

 ―――と、そこで逃げ出していたら、現在の私は無い。

 逃げ出しかけた私たち2人の気持ちを引き止めたのは、即座に投げ掛けられていた……低くて冷たい声。


「ドア開けたらサッサと閉めろ。煙が外に洩れるだろうが」


 このセリフで、逃げ出そうとしかけていた気持ちごと、カラダがパキッと凍り付いてしまったのだ。

 ピシャリとそれを言ったのは……即席雀卓を囲んでいた1人、白衣を着た男性。

 ――つーか、このヒト顧問のセンセイなの……?

 その人は、こちらに視線を向けもせず、くわえタバコで手の中の牌に集中したままで……更に冷たく言い放つ。

「入るなら入れ。出るならさっさと出てけ。勝負の邪魔だ」

(『勝負』ってアンタ……)

 入部希望のカワイイ新入生を放ってまで続ける価値のある大事な勝負なんですかソレは……?
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