Anniversary
そこで唖然とした私が絶句した、その隙に。
私よりも立ち直りが早かったらしいミカコが、ぱたんと静かに、ドアを閉めた。
もはや諦めたように、コッソリとタメ息を吐きながら。
その音に反応したのか……ようやくそのヒトは、「ん…?」と言いたげに顔を上げてこちらを見やる。
「何だ、何か用か? 用があるならサッサと言え。授業の質問なら受け付けんぞ。後にしろ」
「…………」
(うわあああ、やっぱりこのヒト“先生”だよー……!! しかも、何っつーイイ加減さ……!!)
その、あまりの不良教師っぷりに再び私たちが絶句したところで……聞こえてきた、今度は別の低い声。
「センセー、それは冷たすぎだって。そのコたち新入生じゃないの?」
その“先生”の背後に置かれていた戸棚の影から姿を現したのは、1人の男子生徒。
…ネクタイの色から3年生だということが解るけど。
「新入生にくらい…つーか、しかも相手はオンナノコなんだから、もうちょっとくらい優しくしてやんなよセンセー」
「うるせーぞ吉原(よしはら)! 俺ほど誰に対しても平等に優しい教師なんて、他にいるかよ」
「平等に“無関心”の間違いじゃん」
「…言うじゃねーか、このクソガキ」
そんな言葉を“先生”と軽く交わしながら……その『吉原』と呼ばれた3年生は、
――きっと戸棚の陰で本を読んでいたのだろう、手に抱えた文庫本を上着のポケットに押し込みつつ、にこやかに私たちの方へと歩み寄ってくる。
「まさかとは思うけど……部室(ココ)へ来たってことは、―――ひょっとして入部希望?」
ニッコリした笑顔で尋ねられた私たちは、そんな彼の言葉尻に「…じゃないよねーいくら何でも」と続けられていたにもかかわらず……揃ってそこで、ウッカリ素直に頷いてしまっていた。
「はい、そうです……」
「入部希望、です、けど……」
―――つまり、これが……私たちが“後戻り”できなくなった、直接の原因。