Anniversary
そこで低く呻いた私は、そのまま息を止めると無言でツカツカ部室の中央を横切りベランダへ向かって歩いていき……おもむろにガラピシャと、乱暴に窓という窓すべてを全開にする。
外から入ってきた新鮮な空気を、まず、思う存分、吸い込んで。
そうしてから……努めてにこやか~に、振り返った。
私の視線に映るのは……それぞれタバコ片手に即席雀卓に向かったままコチラを見やっている、3年生の坂本(さかもと)・葛城(かつらぎ)・田所(たどころ)先輩の、お三方がた。
「――ねえ、先輩っ?」
ニッコリとした私の笑みとミョーに優しげなその言葉で、ハッと我に返ったように……3人は、それぞれ手にしていたタバコを、即座に灰皿がわりの空き缶に放り込む。
――が、〈時、既に遅し〉。
そんなことくらいで……私の切れそーになってる血管がやんわりと、
―――癒されてくれるハズなんて、ないでしょうがああああっっ!!
「何度も何度も何度も何度も……!! 『部室内禁煙!』って言ってるのに……どぉして守ってくれないんですかああああああッッッ!!!!」
大絶叫をかますや否や……そして、窓付近の戸棚に常備してある“お部屋の臭い取り”用の消臭スプレーをガッと握り締めるなり、3人の先輩たちに向かって勢いよく吹き付ける。
おまけに、シッカリ常備済みの“トイレの臭い取り”用のスプレーと合わせて。
部室中に広がる、サワヤカなミントの香と甘ったるいキンモクセイの香。
「ぐああああっっ……!! ややややや、ヤメロ小泉(こいずみ)!!」
「わああ、俺たちが悪かったっ……げほごほげほげほっ……!!」
「つーか高階サンっ!! そんなスミッコで笑ってないで、小泉止めてっ……!!」
毎度毎度のこの騒ぎに、こーなるとミカコも慣れたもので……シッカリとハンカチを口許に、しかもいつの間にやら風上である窓際に移動していて、ニコニコと涼しげなカオで傍観者に徹してくれている。
――が、それも甘い。
ナニを隠そう、ミカコこそ最終兵器。