Anniversary

 反射的にドアの方向を見やった私の視界に映ったのは、長身の体を軽く屈めるようにして今しも扉をくぐらんとしている、くわえタバコに眼鏡をかけ白衣をだらしなく羽織っている1人の男性の姿。

 ―――コイツこそ私の天敵、ウチの部の顧問である理科教師。

《天文部》顧問、――またの名を碓氷(うすい)恭平(きょうへい)、25歳。

 地学担当教諭で1年C組副担任。

 …つまり何の因果か私のクラスの副担任。…イヤガラセかしら?

 ホントこんなヤツ、名前を呼ぶのもオゾマシイわよ!

 つーか、名前を呼んでやる価値すら無いわよ!

 ヤツは部室に入るなり、部屋中に蔓延しているミントとキンモクセイとセッケンの香に気付いて、眉をしかめる。

「…まーた派手にやりやがったな、小泉(こいずみ)桃花(ももか)」

「…また出たわね、諸悪の根源ッ!!」

 ――片や、不機嫌そうにタバコの煙を吐き出しながら高い位置にある視線で見下す、長身のムサいオヤジ。

 ――片や、両足広げて両手を腰に屹立してキッと上を見上げる、余りにもこじんまりとしたサイズの私。

 そんなの……どっちに分(ぶ)があるかなんて、一目瞭然じゃないの悔しいけど……!!

 睨み合っては視線にバチバチ火花を散らしていることに飽きたのか、ふいにヤツがニヤリと笑った。

 しかも鼻で。

 フフン…ってカンジで。

 そして、さもイヤガラセのように、悠然と息を吸い込むと、フーッと深く、白い煙と共に吐き出した息を、あろうことか私の鼻先に向かって吹きかけて下さる。

 それこそ、“どんなに消臭したって所詮ムダムダムダムダ…(以下無限)”とでも言ってるみたいな……、


(………ッッ!!!!??)


 ―――そんな私の視界のスミに……ミカコが耳を塞いでその場に蹲ったのが見え……そして、いつの間に起き上がっていたのか、3人の先輩たちがコソコソと部室のスミの方に移動していったのが解り………、

 そして私は震える拳を握り締めて……思いっきり、息を吸い込む。


「こんッの…クサレ外道インケン中年教師ぃいいいいい―――――ッッ!!!!!!!」
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