Anniversary
「お誕生日おめでとう、桃花」


 唇が離れてから……それを言った先輩のその言葉で。

 突然のキスに、やはりボーッと呆けているしかできなかった私は、そこで我に返り、余韻も何もあったモンじゃないってくらい反射的に「ええッ!?」とハシタナく大声を上げてしまっていた。

「先輩、知ってたの!?」

「そりゃモチロン。カノジョの誕生日くらいは当然やろ?」

「『カノジョ』って、先輩……!!」

(そんなこと、一度も言ってくれたことなんて無かったくせに……!!)

 だが、驚いて絶句する私の胸中を知ってか知らずか、「おやぁ?」と、先輩はニヤニヤしながら私のオデコを小突く。

「桃花はオレのこと、カレシだとは思っててくれてなかったんかー? そうかぁ……所詮オレのことなんて、カレシにしたくはないんやー桃花は……」

「なっ…!? そっ、そんなことないもんッ!! 私、ずっと先輩がカレシだったら…って思ってたよ!! むしろカレシになってくれるのは先輩じゃなきゃイヤだよ!!」

「じゃ、ええやんかそれで」

「――――!!」

 そうニッコリ言われてしまうと……グッと言葉を詰まらせたまま、何も言えなくなってしまう。


「でも……私は、まだ先輩に『好き』って言ってもらったこと、無いもん……!」


 それでも……これだけは訊きたいと思った。これだけは言わなくちゃって思った。

 ボヤくように拗ねたように…呟いて、それを告げた私を見下ろした視線を受け止めてから、静かに続ける。

「『好き』だとも言ってもらえないカノジョなんて……“カノジョ”って、呼べるのかなぁ……?」

 その言葉を聞いて先輩は、そこで「あれ?」とでも言いたそうな表情を顔に浮かべた。

 そして言う。アッサリと。


「言ったやんか、さっき」


「…………」


 ――だからどーして、そんなにもアッサリなのよッッ……!!
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