Anniversary





「うーわ、もう、あっつーい……!!」

 開け放してあった廊下の窓の向こうから響いてくるジージーとしたセミの声を聞きながら……そんな呟きを洩らしつつ、私は理科室の扉を引き開けた。

 途端、閉め切った部屋の中で暑さが籠っていたのだろう、むわっとした熱気が溢れ出したように襲ってくる。

 夏休み真っ只中の、こんな陽射しがジリジリと照り付ける一日の最高気温35℃を記録するような今日、

 …よりにもよって、まだこんなにも日の高い時間。

 校舎の中には、生徒なんて誰1人として居やしない。しかもココは《特別教室棟》なんていう名前の、フツーの教室が並ぶ本校舎から離れた場所だもん、余計に人影なんて無い。

 入った理科室の暑さに耐えかねて窓を開け、校庭を見下ろすも……いつもなら練習に勤しんでいるはずの運動部の姿も、今日は無かった。

 もう今日の練習は終わったのかもしれない。

 ――そりゃそーよね。こんな暑い中で普段通りに激しい運動なんてしてたら、確実に熱中症でブッ倒れる人間が多数出るに違いない。

 そんな日のそんな時間に1人、私がこうして学校に来たのは……部活動のため。

 とは言っても、部活を終えてココに来ているワケじゃない。

 ――その逆。

 私が入っているのは《天文部》。

 そんな通常の活動も活発とは言い難い“夜行性”マイナー文化部で、今日はホトンド無いに等しい夏季休業中の部活動の、ちょうど観測会の日。

 ゆえに、他の部が本日の活動を終えて、部員が皆帰宅したような時間になってから……私たち“夜行性”な天文部員は活動し始める。

 そして部内で最も下っ端(ぱ)である1年生の私は、今日の観測会での雑用当番に当たっていたというワケで。

 だからこうして、学校に人気(ひとけ)もなくなり、そして天文部員もまだ集まっていないような時間に、観測会の“下準備”をすべく1人登校してきたのだった。
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