Anniversary

 ―――籠っていた室内の空気が、開けた窓から緩やかに動き出す。


 その場で1つ、深呼吸をして……そして私は踵(きびす)を返した。

 ここ理科室の隣に在る、理科準備室。

 そこは、理科室の中からしか入れない。

 理科担当教諭しか入室できない規則であるその部屋は、授業の時以外、常に施錠されて一般生徒から閉ざされている。

 しかし、“天文部員”で“1年生”で“雑用当番”である今日の私の手の中には、しっかりと、その鍵が握り締められていた。

 観測会に必要な天体望遠鏡やら何やらは、全て準備室の棚の中に仕舞われているのだ。

 準備室に入れなきゃ、雑用係のイミが無い。

「…さて、と」

 ひと声ごちて、シブシブ私は動き始める。

 まずは、観測会の場である屋上に運ばなくてはならないものを全て、いったん準備室から出してしまおうと思い立った。

 全てのものを準備室から理科室へと移しきってから……それから屋上へと運ぶ方が、多分、効率が良い。

 そしてゴソゴソと私は、忙しなく準備室と理科室の間を往復し始める。


「―――あの……理科室って、ココでええの?」


 それは、ちょうど天体望遠鏡の入った包みを抱えて準備室を出てきたトコロで。

 ふいに投げ掛けられた耳慣れないイントネーションの低い声に、思わずビクッとして、私は反射的にそちらを振り返っていた。

 振り返った私の視界に映ったのは、開け放した入口の扉からコチラを覗き込んでいる、―――私服姿の1人の男子。

 制服を着ていないってことは……ウチの生徒じゃないのかもしれない。

 それに、校内で見たことないもん、こんな人。


(見たことないわよ、こんなカッコイイ人なんてっ………!!)
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