Anniversary





「そういえば……これも知ってるか? 桃花?」

 みんなの輪から少し離れて、2人だけで並んで宵闇に浮かぶ月を眺めていた時。

 ふいに私を振り返って、みっきー先輩が言った。

「“十五夜”と“十三夜”の月見、どちらか片方の月見しかしないことを“片月見”って云うんやて」

「“片月見”……?」

「そう。“十五夜”だけ月見して“十三夜”の月見をしない、ってことは、そう云われて嫌われたんや。――だから……今日こうやって“十五夜”の月見をしたからには、来月、“十三夜”の月も見ないとイカン、っつーワケやな」

「じゃあ……来月もまた、こうやって“月見計画”?」

 また薄とってこなきゃ…と、振り返って先輩を見上げた、そんな私の耳元近くに……囁かれる小さな言葉。


「―――“十三夜”の月見は、2人だけでしような?」


「…………!!」


 思わず真っ赤になって目を丸く瞠った私に、コッソリ、軽くかすめるようにキスを落として。

「ほな、実果子ちゃんの作ったスイートポテト、戴きにいこーか。そろそろ宴会に入る頃合やで?」

 そして、私の手を引いて、みんなの輪の中へ向かって歩き出す。


 ―――ドキドキは、まだ治まらない。

 満月なんて、…だからキライよ。

 眩しすぎて、もう夜だというのに、こんな真っ赤になってる私のブスな恥ずかしい顔までも、明るく照らし出してしまうんだもの。


 それでも……みっきー先輩の柔らかくて優しいステキな笑顔をキレイに映してくれるから……満月は、だからスキ。
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