小さな約束


「言い残したこととかない??


後で言えばいいなんて思っちゃだめだよ。


人はいついなくなるかわからないんだから」




「え…??」




「別に竜太くんだけのことを言ってるんじゃない。


あたしもお医者さんも、通りを歩く人達も、もちろん光流ちゃんだっていついなくなるかわからない。


今生きていれるのはみんな奇跡なんだから」




「………」




黙り込む俺を見て、看護士は優しく笑った。




「それね、『病気に勝つ』って意味だよ。


結構前にいきなりあたしんとこ来て、裁縫教えてって言ってさ。


あたしびっくりしたよ。


すごく下手くそだったしね。でもすごく頑張ってた…。


光流ちゃんらしいよね。


影ですごく頑張ってるのって」




必死に針を縫う光流がふと目の前に浮かんだ。


針を指に差してしまい、顔をゆがめながら指をくわえている。


確かに光流らしいな。




…光流は針を縫いながら一体何を考えていたのだろう。




光流は一体どう思いながら俺に告白したのだろう。




そう言えば俺はまだ光流に何も言ってない。


告白の返事も『ありがとう』も…。




『後悔だけはしたくない』


『後悔だけはして欲しくない』


光流の声と看護士の声が重なった。


そう言った時の光流の目は強い光を宿していた。


そう言った時の看護士の目は美しかった。




俺もなりたいな。そんな目に。





言おう…。


光流も頑張って言ったんだ。


俺もけじめつけなきゃな。




「俺…ちょっと行ってくる!!」




俺は御守りを握りしめ、病室を飛び出した。




顔は見えなかったけど、きっと看護士は優しい笑みを浮かべていたに違いない。
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