小さな約束
「ハァッ…ハァッ…」
前を見るとエスカレーターの扉が閉まりかけている。
俺はギリギリのところですべりこんだ。
「ハァッ…一階までお願いします!!」
エレベーターに乗っている人達は、俺の必死の形相を見て目をみはらせた。
エレベーターが下につくまで息を整える。
まだ…間に合うだろうか…。
走っている間、走馬灯のように光流との思い出が頭の中を流れていった。
光流の笑顔が目の前に浮かぶ。
笑っている顔。
怒っている顔。
泣きそうな顔。
全ての光流が愛しくて。
全ての光流が懐かしくて。
光流が来てから1ヶ月。
たくさんの幸せがあった。
たくさんの勇気をもらった。
光流に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。
光流を笑顔で見送る覚悟はできていた。
でも何だろう。
この胸のもやもやは。
この胸にポッカリ穴が空いた感じは…。
チン♪
エレベーターが一階につき、ゆっくりと分厚い鉄の扉が開いた。
それと同時に俺は飛び出し、急いで光流の姿を探す。
「あっ!!」
光流はきれいな花束を抱え、多くの人に見送られながら病院を出ようとしていた。
遠ざかる光流の背中を見つめていると、ふと自分の気持ちに気づいた。
俺は必死の思いで光流を呼び止めた。
「光流っ!!!」