天使と呼ばれたその声を
この時間帯だと、家には誰もいない。財布も携帯も家にあるから、今が自宅に戻るチャンスだった。
見慣れた細い裏道を通り抜けると、高いビルのせいで日当たりが悪いアパート地帯に入る。その中でも、特に年季が入っているボロアパートの1階の角部屋が私の家。
サビが生えているポストに手を入れ当たり前のように鍵を掴む。そして、それを扉の鍵穴に入れ開けると、むせ返る位の煙草の臭いが身体に纏わり付いた。
散らかり放題の茶の間を通り抜け、締め切ったままのカーテンを開けても真っ暗なまま。窓を開けてもコンクリートの壁が邪魔して風なんか入ってきやしない。
取りあえず、自分中では一張羅だった安物のワンピースを壁にかけて、床に放り投げていた制服を掴んだ。