天使と呼ばれたその声を
おじさんが立ち止まった時に、心臓が大きく音をたてた。あまりもの緊張に空嘔吐しそうだった。
誰も気付いてくれない。
助けてくれない。
小刻みに震えていた足が、大きく震えていた。
……その時。
ジャーンというアコースティックギターの音と共にあの声が聞こえた。昨日聞いた歌とは違うけど、この歌声は間違えるはずがなかった。全身で感じる。
魂が浄化される、極上の澄み切った声が…。騒がしい雑踏に負けないで、風に乗って聞こえてくる。
……あの死神!?
私はやっと顔を上げて、無意識に掴まれていた腕を払った。そして、走り出していた。
「ちょっ……、オィ!!」
私を買ったはずのおじさんは慌てた様子で私に静止を促したが、身体が止まらない。