天使と呼ばれたその声を

あの死神に会いたかった。気持ちではなく、身体がそう訴えていた。ラブホテル街を抜け、アーケードに出る裏道をただひたすら走り続けた。


声がさき程よりも間近に感じる。


締まっている店のシャッターの前。ギターケースに楽譜を乗せて胡座をかきながらギターを弾く、大勢の人達の中心にいる金髪ストレートの死神。


その人達を両手で掻き分けながら死神の前に息を切らしながら仁王立ちをすると、あの猫のような大きな瞳が私を捕らえた。
ギターの音も唄う事も止めないで、ただ、私を見つめるだけ。



「……助けて」




何故、その時、彼女にそんな事を言ったのかは分からない。
ただ、その声が、私を救ってくれるって確信があったんだ…。




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