天使と呼ばれたその声を
「しつこ…」
彼女は軽く溜息を吐き捨て、私をジッと見つめる。
そして、ギターの入ったハードケースを前に突き出す。
「持って」
「あ、うん」
「また走る」
「うん」
「……」
「……」
「それ、傷付けたらただじゃおかないよ」
とんでもなく恐ろしい言葉と目力で訴えた後、あの時と同じ背負っていたバックをあさり、携帯を取り出した。
「行くよ」
再び腕を掴まれて、路地裏を走り抜ける。彼女は器用に携帯を操作し、それを耳に当てた。
「アタシ。ちょっと厄介事に巻き込まれた」
うん。うん。と相槌を打つ彼女の電話の相手はわからなかったけど、