天使と呼ばれたその声を
「ソラ!走るんじゃねぇ!」
って、受話器から漏れる程の大きな男の人の声だけは聞き取る事が出来た。
漏れた声を聞いただけでも驚いたのに、携帯を耳に当てている当の本人は動じた様子は見受けられない。
また相槌を打つだけの会話は始まり、電話は終わりを告げた。
まだ走り続けていた“ソラ”と呼ばれていた彼女。本名なのかもしれないし、全く別人の名前かもしれない。
「ねえ!名前ソラって言うの?」
「……」
「走ったら駄目なの?」
「走るも走らないもアタシが決める。アンタに関係ないじゃん」
前を走る彼女が今、どんな表情でその言葉を吐き捨てたかは分からないけど、とても哀しい声だった。何かを諦めたような。どうでもいいような…そんな哀しい声…。