天使と呼ばれたその声を
重力に引っ張られたままの重たい瞼のまま振り返り、フェンス越しにその声の持ち主を瞳に捕らえた。
暗がりでも理解出来る金髪のロングストレートの小柄な女。アコースティックギターを抱え、猫のような大きな瞳が私を見つめている。
私のこの“状況”に動じる事もなく、無表情のまま歩みを進めてきた。例えば。「はやまるな!」とか「よく考えて」とか引き止めるもんじゃないだろうか。別に引き止めて欲しいワケではないけれども…。
「ねぇ、飛び降りるの?」
引き止める所か、さっきと同じ質問を繰り返す。
「……えっと、」
口ごもる私を無視して、彼女は私と内側を隔てるフェンスの下に腰を下ろし、背負っていたバックから赤いキャンドルを取り出すと、それに火を点けた。